その男、極上につき、厳重警戒せよ


「……そ、そうなんですか。すみません、だったら」


遠田社長の顔がもう見れなくて、私は俯いて一歩下がった。


「あなたには何の責任もないわ。私、なんて失礼なことを……」


バカみたい。勝手に父親じゃないかなんて妄想して憎んで、とんでもない言葉を投げつけてしまった。
穴があったら入りたい。


「はい、ストップ」


低い声とともに、急に目の前が真っ暗になって、どん底まで落ちそうになっていた私の思考もピタリと止まる。
気が付けば後ろに深山社長が立っていた。私の目を隠す大きな手は、彼のものだ。


「こら、深山くん。セクハラだよ」

「失礼な。このくらいならスキンシップの域ですよ。遠田社長は遠慮し過ぎなんです」


私を間に挟んで交わされるふたりの会話。
他人同士なはずなのに親し気で、それにもまた驚く。


「言っただろう、自己完結は駄目だって。君はまだ、聞きたいの半分も聞いていないだろう。こんなところで怯むなよ」


深山さんの声が頭の上から響く。息が髪の毛に当たって、距離の近さにドキドキする。だけど、視界を奪われているせいか、彼の言葉はまっすぐに私の中に入って、頑なだった心に浸透していく。

思えば私はいつだって、自分の中で勝手に結論付けて黙ってしまっていたんだ。

お母さんに対してだって、そう。

“私のお父さんはどんな人だったの?”
そう聞けば、幼い頃ならまだしも、二十歳を過ぎた私になら、ちゃんと教えてくれたかもしれない。
ただ、母の涙を見るのが怖くて、どうでもいいふりをしていた。

社長にだって、確かめれば済む話だったのに、受付で顔をさらすことで気付いてもらおうなんて遠回しなことをしていた。

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