その男、極上につき、厳重警戒せよ
「父は結婚と同時に、私に会社を譲る気だったらしい。元々あまり経営手腕はない人間だったからな。疲れていたんだろうと思う。私は、社長の座が欲しかったし、会社の資金も欲しかった。容姿も性格もどうでもいい。ただ金のために結婚したい。そう思って見合い写真も見ずに見合いに臨んだ私は、彼女に会って頭を叩かれたような衝撃を感じたよ。綺麗で機転の利く人で、その場で一目ぼれしてしまった。……だが、彼女のほうはそうではなかった。もっとやりたいこともあるのに、なぜ結婚なんかで縛られなきゃならないのかと不満そうだった」
私は、母なら言いそうだと思ってしまった。
二十歳ならまだ、やりたいことのひとつもやれてなかっただろう。
「でも見合いなんて形だけで、結婚自体は親同士の間で交わされた契約のようなものだった。彼女は何度も断ろうとしたけれど、そのたびに親に宥められたんだろう。何度かデートをしたが、彼女は毎回不貞腐れた顔で父親に送られてやってきた。私は彼女の心をとかそうと思ってね。家族に慣れてもらおうと、ホームパーティに呼んだ。……その時に、出会ったんだろうね。攻と」
「……じゃあ」
「弟は、当時二十四歳で建設業についていた。私とは違って体を動かすのが好きでね。ふたりはひそかに恋を育てていたらしい。しかし、彼女の父親と約束したのは若くして社長になると目されていた私だ。彼はひどく反対した。断れない見合いに嫌気がさしたのか、彼女と攻はふたりでどこかへ行ってしまったんだ。攻は仕事もやめ、彼女も学校を辞めた。パスポートがなくなっていたから、海外に出てしまったんだろうと思う。さすがに本人がいなければ見合いはそれ以上勧められない。私は一年後、別の資産家の女性と結婚し、息子も設けた」
それが現在二十六歳になる、遠田譲(ゆずる)専務のことか。