その男、極上につき、厳重警戒せよ


「行方不明になったふたりのことを諦めた頃、風の噂で桐子さんが戻ってきていると聞いて会いに行ったんだ。桐子さんは二十三歳になっていて、妊娠三ヵ月だった。父親は誰かと聞いても答えてはくれない。攻とは別れた。だからもう関係ないから来るなと言ってね。すでに結婚してしまっていた私には、それ以上は口も手も出せなかった。幸い彼女の父は娘一人を養うことくらいなんてことなかったしね。そして、……彼女は君を産んだ」


ある意味で、この人は私に深くかかわっていたんだ。
彼が父母を出会わせ、そして追い込んだ。


「その二年後だ。私のもとに、ある人が攻の死亡通知と彼からの手紙が届けてくれた。その人から、日本を出てからの二人の足取りを教えてもらえた。攻と桐子さんは、最初アメリカにわたり、そこでふたりで働き始めた。最初は日本語講師としての職を得たらしい。そこで、紛争地域からの移民の子供たちと知り合い、彼らを支援する法人を開設して……数年後、拠点を現地へと移したらしい。桐子さんが帰されたのは、どうやらその時点でのことのようだ。攻は、彼女を危険な地域に置いておきたくなかったんだろう。妊娠には気付いてなかったようだ。少なくとも、攻からの手紙にはそれらしいことは一言も書かれていなかった。攻は彼女と別れた時に、遺言書を作成していて、傷つけた詫びとして死んだときに遺産の半分を彼女に渡してほしいという意思を綴っていた」


戦争の火種を抱える地区で誰かを助けるために生きようという考えは、私にはよくわからない。
まだ自分のことさえままならない私に、他人が救えるとは思えないから。父は、それをやろうと思うくらいに意思の強い人だったのかしら。
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