その男、極上につき、厳重警戒せよ
希望だけを秘めた恋は、結局は羽化さえしていない卵のようなものだ。
いつか生まれると当然のように期待していたが、まっとうに生まれてくるとは限らない。
殻が割れていないから分からないだけで、もしかしたらもう死んでいる恋なのかも知れないんだ。
そんな不安がよぎったのは、やはり俺も弱気になっていたからなのだろう。
松田副頭取の鋭い視線から逃がれられるほど、俺は彼女を信じきれていなかった。
気持ちの揺らぎを見逃さない熟練の企業人は、小さな迷いを見逃さず、更に畳みかけてくる。
「なに、まずは会ってみないと分からないだろう? お見合いみたいなものだと思ってくれ。別に無理に孫と結婚してほしいと言っているわけじゃないんだ」
「はあ」
「若い子に、社会経験させると思ってくれればいいよ」
「……ちょっと考えさせてください」
明言をさせる形で俺はそう返事をした。
自分も会社をまとめる立場にあって、思う。
迷うことは、決して悪いことではない。悪いのは、迷いから目をそらすことだ。
待つのは苦手だ。
そろそろ、彼女――咲坂静乃との関係を考え直さなければいけない時期なのかも知れない。