その男、極上につき、厳重警戒せよ


「いいけど、お前、高井戸さんは?」


高井戸さんは中途採用した受付事務だ。小さくて元気のよい彼女は恭平の好みのタイプだったらしく、あっという間に同棲まで持ち込んだらしい。その素早さは称賛に値するだろう。


「なんか前の職場の友達と食事なんだと。ひとりで家で食うとか、つまらないしさ。他の人も誘って……あー大山さん! 大山さんも行きましょうよ」


恭平は、帰ろうとしていた大山さんをも引き留めた。

大山さんは五十歳で、うちの副社長。

【フェンス】を立ち上げるにあたり、俺が一番危惧したのは、会社の信用という点だ。なにせ社長が俺という若造だし、全体の平均年齢も低い。若者の勢いを認めてくれる会社もないわけじゃないが、大企業のほとんどは経験を重視する。
そこで、会社全体の安定感と統率を取ってもらう名目で副社長についてもらったのが大山さんだ。大学の先輩の伝手を頼って紹介してもらった人だが、総務の人事畑でやってきた人なのでしっかりしているし、経理にも精通している。俺の苦手分野を補ってくれる彼がいなければ、会社の立ち上げはもう少し苦労しただろうと思う。

最初の頃は若者ばかりのこの職場になじみ切れないのが心配だったが、恭平が来てからは、彼の年上にも遠慮のない図々しさのお陰で、若い衆にも案外馴染んでいる。

そんな大山さんは、恭平の誘いに目をぱちくりとさせていた。


「私も……?」

「たまには一緒に飲みましょーよ。大山さんの娘さんの話とか聞きたいなー」

「面白い話など何もないがな。……君にはやらんぞ」

「ダイジョブっす。俺、今、彼女いるんで」


相変わらず、なんのてらいもなく大山さんに向かっていく桶川に、尊敬の念が生まれる。

< 61 / 77 >

この作品をシェア

pagetop