その男、極上につき、厳重警戒せよ
まずは主催者のもとに挨拶に行き、その後取引先の集まる輪の中に混ざった。
「やあ深山くん、美しいお嬢さんを連れているじゃないか」
普段俺がひとりで出席するのを知っている人たちが、彼女を見て楽しそうに冷やかしに来る。
女性を同伴する効果というのは確かにあるのかもしれない。ひとりで出席しているときより、周りにいる人間が笑顔になる。話題が弾み、商談の場ではいかめしい顔をした重役にも話しかけやすい。
なるほど、人間には隙も必要ということなのか。
「なかなかお似合いだ」
傍に近寄ってきた松田副頭取の冷やかしに、「やだぁ」と李衣菜さんが茶化し、俺は笑顔を浮かべるにとどめた。
気分は悪くなかった。
何のことはない。李衣菜さんは俺が慣れているタイプの女性なのだ。
かつて付き合った女性も、仕事関連でつきあいのある女性も、いわゆる“出来る女”で。
だから、こうして一緒にいても疲れることはないし、困ることもない。
このタイプの女性と付き合ってうまくいかなかった理由は単純だ。
お互い要領がいいから、一緒にいても別々のことばかりしていた。その方が効率がいいし、何事もスムーズに進んだから。気付けば性的な欲求を満たすだけの相手になり、一緒にいる意味はすぐに見失ってしまった。
俺は多分、自分と似たタイプの女性とは合わないんだろう。
そう思えば、咲坂に惹かれたのは自分でも意外だった。
自分の意思を主張してこないから何を考えているか分からないし、作って貼ったような笑顔も好きではない。
ただ、恩人の娘で、遠田社長からも頼まれたから、放っておけなかっただけだ。
なのに、たった数日で、彼女が俺の中から消えなくなった。
そうだよ。
どうして、あんなに回りくどくて、面倒くさい彼女に俺は惹かれてしまったんだ。
恋愛に分かりやすい理由があるとは思っていない。気が付いたら落ちていて、深みにはまって抜けなくなるものだと聞いたこともある。でも自分が、そんな恋をするとは思っていなかった。