その男、極上につき、厳重警戒せよ
俺が取引先の相手をしている間、李衣菜さんは周りの奥様方と談笑している。若いながらいい度胸の持ち主だ。
社長夫人になるのに、必要なスキルを完璧に持ち合わせている。
咲坂なら……。
彼女なら、きっと真っ赤になって困るだろう。
俺が傍から離れたら、きっと壁の花になって、自分はこの場には似合わない……というような卑屈なことを考えながら、そこに立っているだろう。
全く社交には向いていない。社長夫人になれ、と言ったら嫌がられること請け合いだ。
李衣菜さんと比べるならば、明らかに結婚相手としては李衣菜さんのほうが向いていると言える。
それなのに、俺は彼女を忘れられずにいる。
この空間の中に、彼女がいたらいいのにと今も思っている。
馬鹿げてる。
……馬鹿げてるのが、恋なのか?
考え疲れた俺は、盛り上がっているテーブルから少し外れ、壁に背中を預けた。
ふうと息をついたと同時に、白い壁に、彼女の幻影を見たような気がした。
頭の中で幻想の彼女に手を伸ばし、“一緒に行こう”と誘う。
彼女は上目遣いで俺を見つめ、小さな唇を開いて何かを答える。
俺は一歩を踏み出してほしくて、壁の彼女に触れようとした。当然、幻影の彼女は揺らめいて消えた。
【今の私じゃダメなんです】
あの日の彼女の声が重なるように頭に響いて、胸が締め付けられた。
そして、焦燥とともに沸き上がるのは、必死な感情だった。
会いたい。
ダメだというなら、それでもいい。
だったら俺も君と一緒にもがくから、ただ傍にいさせてくれないか――。