その男、極上につき、厳重警戒せよ


「……深山さん?」


いつの間にか傍に来ていた李衣菜さんの声に、驚いて瞬きをした。


「ああ、李衣菜さん。すみません、ひとりにさせて」

「いえ。お料理とてもおいしかったですよ。深山さんもいただきません?」

「ありがとう」


ぼうっとしていた俺に気を使ってくれたのだろう。
気の付く、いいお嬢さんだと思う。打算的な言い方をすれば、この子は“買い物件”だ。
だけど、今の俺には、彼女の手を取ることはできない。

こんな女性を目の前にして、思い出すのは彼女のことばかりなのだから。


『……初めて名前、呼んでくれましたね』

遠田社長と咲坂が対峙したとき、彼女は泣き出しそうな表情をした。
本当は名前を呼ばれたいだけだったんだと、切に語った彼女がいじらしくて。

俺は多分あの瞬間に、彼女に強烈に惹かれたんだろう。

俺からすれば、悩みもせずに告げれるようなたった一言を、あんなに遠回りしなければ言えなかった彼女だからこそ、俺は彼女をなんとか助けてやりたいと思ったんだ。

不器用でどんくさいともいえる彼女の気質は、それまではマイナス要因だと思っていた。
だけど、熟考することは思いを深めることだと、俺は今回のことで気付いた。

彼女を待っていたこの期間で、思いは募り、自分の気持ちが深まっていく。
不安になっても、迷っても、結局はやっぱり君が好きだという思いが残るなら、これは本物の恋なんだろう。


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