その男、極上につき、厳重警戒せよ



それから数日後。大山さんが俺の背中を優しくたたくと、「今日は飲みにいこうか」と誘ってきた。


「いいですけど?」

「店は私がみつくろっておくから」


なんなんだ?
愛妻家の大山さんが自分から誘ってくるなんて珍しいんだが。

その後客先に出て、戻りがてら店によると、大山さんの隣には恭平までいた。


「おーい、深山。こっちこっち」

「恭平も来てたのか」

「君を励ますのに、私では口下手すぎるかもしれないと思ってね」

「励ます……?」


大山さんの言動が意味不明だ。
座ると同時に店員がビールを持ってきて、一口飲んだところで大山さんが肩を叩く。


「やはり若い子とは合わないよな。君は若いのにしっかりしたいい男だ。落ち込むことはないんだぞ」

「……落ち込んでなんていませんけど」

「そうか? だって振られたんだろう? 松田副頭取のお孫さんから」

「俺が? いや、そもそも交際まで発展してませんし」

「そうなのか? 松田さんにお会いしたら、『孫娘がやっぱりおじさんは嫌だ』と言っていたらしくて、深山君に失礼をしたんじゃないかとって恐縮していたから」


なるほど、この奇妙な誘いは、俺が傷心なんじゃないかとおもんぱかってくれたということか。
大山さんは、真面目な顔して案外優しいよな。嬉しすぎて、笑ってしまう。


「ははっ。大丈夫ですよ。素晴らしいお嬢さんで、振られても本望ですから」


おそらく、俺から断られたと知られたら、仕事に差し支えると思ってくれたんだろう。本当に出来のいいお嬢さんだ。恋さえしていなければ、絶対に逃したりしないんだろうけれど。

ひとしきり笑った後、俺はぼそりと本心をつぶやいた。


「……早く会いたいな」

「え?」

「咲坂に。会って自分の選択が間違いじゃなかったか確かめたい」


それに食いついてきた恭平は、口元を緩めて俺の肩に手を乗せる。


「もう少しの我慢じゃね? クリスマスとかと一緒だよ。いい子にして待っていたら、きっといいことあるって」


どんな慰めだよと思うけれど、恭平の気持ちは嬉しかった。
ああ俺は、いい社員に囲まれている。それを実感しただけでも、今日はいい日と言えるだろう。
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