その男、極上につき、厳重警戒せよ
*
それから数日後。大山さんが俺の背中を優しくたたくと、「今日は飲みにいこうか」と誘ってきた。
「いいですけど?」
「店は私がみつくろっておくから」
なんなんだ?
愛妻家の大山さんが自分から誘ってくるなんて珍しいんだが。
その後客先に出て、戻りがてら店によると、大山さんの隣には恭平までいた。
「おーい、深山。こっちこっち」
「恭平も来てたのか」
「君を励ますのに、私では口下手すぎるかもしれないと思ってね」
「励ます……?」
大山さんの言動が意味不明だ。
座ると同時に店員がビールを持ってきて、一口飲んだところで大山さんが肩を叩く。
「やはり若い子とは合わないよな。君は若いのにしっかりしたいい男だ。落ち込むことはないんだぞ」
「……落ち込んでなんていませんけど」
「そうか? だって振られたんだろう? 松田副頭取のお孫さんから」
「俺が? いや、そもそも交際まで発展してませんし」
「そうなのか? 松田さんにお会いしたら、『孫娘がやっぱりおじさんは嫌だ』と言っていたらしくて、深山君に失礼をしたんじゃないかとって恐縮していたから」
なるほど、この奇妙な誘いは、俺が傷心なんじゃないかとおもんぱかってくれたということか。
大山さんは、真面目な顔して案外優しいよな。嬉しすぎて、笑ってしまう。
「ははっ。大丈夫ですよ。素晴らしいお嬢さんで、振られても本望ですから」
おそらく、俺から断られたと知られたら、仕事に差し支えると思ってくれたんだろう。本当に出来のいいお嬢さんだ。恋さえしていなければ、絶対に逃したりしないんだろうけれど。
ひとしきり笑った後、俺はぼそりと本心をつぶやいた。
「……早く会いたいな」
「え?」
「咲坂に。会って自分の選択が間違いじゃなかったか確かめたい」
それに食いついてきた恭平は、口元を緩めて俺の肩に手を乗せる。
「もう少しの我慢じゃね? クリスマスとかと一緒だよ。いい子にして待っていたら、きっといいことあるって」
どんな慰めだよと思うけれど、恭平の気持ちは嬉しかった。
ああ俺は、いい社員に囲まれている。それを実感しただけでも、今日はいい日と言えるだろう。
それから数日後。大山さんが俺の背中を優しくたたくと、「今日は飲みにいこうか」と誘ってきた。
「いいですけど?」
「店は私がみつくろっておくから」
なんなんだ?
愛妻家の大山さんが自分から誘ってくるなんて珍しいんだが。
その後客先に出て、戻りがてら店によると、大山さんの隣には恭平までいた。
「おーい、深山。こっちこっち」
「恭平も来てたのか」
「君を励ますのに、私では口下手すぎるかもしれないと思ってね」
「励ます……?」
大山さんの言動が意味不明だ。
座ると同時に店員がビールを持ってきて、一口飲んだところで大山さんが肩を叩く。
「やはり若い子とは合わないよな。君は若いのにしっかりしたいい男だ。落ち込むことはないんだぞ」
「……落ち込んでなんていませんけど」
「そうか? だって振られたんだろう? 松田副頭取のお孫さんから」
「俺が? いや、そもそも交際まで発展してませんし」
「そうなのか? 松田さんにお会いしたら、『孫娘がやっぱりおじさんは嫌だ』と言っていたらしくて、深山君に失礼をしたんじゃないかとって恐縮していたから」
なるほど、この奇妙な誘いは、俺が傷心なんじゃないかとおもんぱかってくれたということか。
大山さんは、真面目な顔して案外優しいよな。嬉しすぎて、笑ってしまう。
「ははっ。大丈夫ですよ。素晴らしいお嬢さんで、振られても本望ですから」
おそらく、俺から断られたと知られたら、仕事に差し支えると思ってくれたんだろう。本当に出来のいいお嬢さんだ。恋さえしていなければ、絶対に逃したりしないんだろうけれど。
ひとしきり笑った後、俺はぼそりと本心をつぶやいた。
「……早く会いたいな」
「え?」
「咲坂に。会って自分の選択が間違いじゃなかったか確かめたい」
それに食いついてきた恭平は、口元を緩めて俺の肩に手を乗せる。
「もう少しの我慢じゃね? クリスマスとかと一緒だよ。いい子にして待っていたら、きっといいことあるって」
どんな慰めだよと思うけれど、恭平の気持ちは嬉しかった。
ああ俺は、いい社員に囲まれている。それを実感しただけでも、今日はいい日と言えるだろう。