その男、極上につき、厳重警戒せよ



そしてそれから二週間後、客先から出たとたんに、恭平からの電話が鳴る。


「はい。なんだよ、恭平。今日は会社に戻らない予定なんだが」

『夜って空いてるんだろ? 今すぐ【ミヤマ】に来てよ』

「は? なんでだよ」

『タクシーその辺走ってない?』


顔を上げてあたりを見回す。ビジネス街であるここはタクシーの需要はあるため、結構な頻度で走っている。


「走っているが」

『停めて乗ってよ』


なんとなく言われるがままタクシーを止め、【ミヤマ】まで行ってもらう。
そう遠くもないので、乗っていた時間は五分くらいだ。その間、恭平は延々と今日の仕事先でのトラブルを説明し始める。それと【ミヤマ】に向かうことの関連性が全く分からない。


「その話、着いてからじゃダメなのか」

『まあいいから聞けって』

「お客さん、着きましたよ」


電話をしたまま支払いを済ませ、下り立ったところで『俺の名前で予約してるから入ってこいよ』と告げられる。
さっきから訳が分からない。そのまま会話しながら、暖簾をくぐった。


「もういい、着いたから切るぞ。……すまない、桶川の名で予約を……」


いつものように、仲居が深々と礼をして迎えてくれた。そして、彼女が顔を上げたとき、俺は心臓が止まるかと思った。

ミヤマの仲居がそろって着る鮫小紋の茶衣着。あげた顔は、俺が会いたくてたまらなかった彼女だ。
< 73 / 77 >

この作品をシェア

pagetop