その男
「ねえ、今日これから飲みに行かない?」
駄目もとで聞いてみる。
返事はすでに分かっていた。
「すみません、ぼく今日はちょっと」
今日は、っていつもじゃない。
美穂はその言葉を吞み込んだ。
断られると分かっていてもやはり傷ついて、そんな自分が嫌になる。
「片桐くんっていつも家に帰って何してるの?」
片桐に彼女がいないのは半年前にリサーチ済みだった。
実家を出て都内に一人暮らし、仕事が終わると誰の誘いにものらず、毎日きっちり終業時間に退社する。
「資格の勉強をしてるんです」
「資格?なんの?」
「篠崎さんは資格なに持ってます?」
資格はたくさん持っている。
厭味なくらい。
片桐にそれを言うのは憚られた。