汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
卒業までに龍二が思い描いた夢は、
「世の中に叛旗を翻し自分の道を刻みそれを残そう」と決断、手段はこれから考えようと思った。
先ずは、中学で教師と対決した学生生活を送ろうとも決めた。

そんな思いに掻き立てられた龍二が弱虫だった自分に決別するため選んだ行動はシベリア鉄道の夢を叶えることにした。
しかし、シベリアまでは到底行く金もなければ行き方さえ分からない。
現在持ち合わせた金額で夜行列車に乗って最大限行ける場所を時刻表を購入し探し秋田と決め、そこに軌跡を残そうと考えた。
実行の日は卒業式の翌日と決め、いざ実行の日が来ると親には事前に承諾が得られなかったので先に切符を買い渋々承諾させた。

上野駅には発車の数時間前に行き数々の夜行列車が発車して行く後ろ姿を眺めながら興奮は頂点に達していた。
入線のアナウンスが駅に響き渡りいよいよ乗り込む瞬間が来た。
ドアが開かれ、それはまるで夢へと導く新しい扉を意味しているかのような感触があった。
発車のベルが鳴り止むと同時に先頭車輌から鳴り響く汽笛が辺りに広がりそれはあたかもスタートを予感させるに相応しく胸が高鳴った。
ゆっくりした足取りで出発する列車から見る上野駅の明かりが少しずつ小さくなっていきカーブを曲がり徐々に見えなくなった。
通過する鶯谷駅に止まる山手線は、この時間乗客数が少なくホームを歩く人も疎らだった。
そんな窓辺の景色も列車の加速により見づらくなりいつしか寝台で眠りに就いた。
フッと真夜中に気付くと列車は福島駅に運転停車をしていた。
駅の明かりに外が照らされ窓から見る隣の線路へ雪が積もる風景に、
「ああ遠くへ来たんだな」
と、龍二は思った。
そして、
「闘いのスタートなんだ」
と心に言い聞かせた。
寝台で瞼を閉じた龍二の頭には、これから叛旗を翻し動じるであろう教師の驚愕する顔と、この先心配尽きなくなるであろういつも優しく包んでくれる母親の顔が浮かんでは消え、いつしか再び眠りに落ちていた。
それから数時間後、龍二は外が明るくなったことに気付き目覚め時計を見ると7時15分を指していた。
「もうすぐ到着か、そこから男鹿まで行き今までの自分と決別だ」
龍二の抱いた感情に夢が重なり、到着間近の合図を鳴らす汽笛の音に新たな道を突き進まんとするスタートの火ぶたが切って落とされた。
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