イジワル男子の甘い声
*
「あ!双葉!」
翌朝、パパとマンションのエントランスを出た時、なにか思い出したようにパパが私の名前を呼んだ。
「ん?」
「今日、パパ取引先に挨拶に行かないといけなくて、ちょっと遠いんだ。そこでの視察もあって、今日は帰れそうにない。向こうのホテルにそのまま泊まると思うけど、1人で大丈夫だよな?」
「えっ、」
「もう、高校生だもんな」
そんな…。
────ポンッ
っ?!
俯いた私の肩に優しく手を置いたパパの顔は、まるで『これも双葉のためにやってる仕事なんだ』とでも言いたそう。
わかってる。
パパは私のために頑張ってくれて、不自由な思いをしないでほしい、快適に過ごしてほしいと思って、今みたいな良いマンションにだって住んでいる。
「うんっ、大丈夫」
私がそうやって笑顔を向けると、パパは「頼もしいぞ」と言って、私の頭をクシャっと撫でた。