不器用王子の甘い誘惑
34.留守番電話
 松田さんはいつも通りで全くもって現実味がない。
 私が夢みたいだと思い続けたせい?

「ゴマフアザラシは俺を思い出して欲しくあげたんだ。
 効果はあったのかな。」

「効果って………。」

 家ではアザラシのぬいぐるみ。
 会社では会わなくなったのに、席に必ず置いてある鞄やジャケット。
 嫌でも目に入って思い出さない日はなかった。

 ジャケット脱いでいたら寒くないのかな?
 とか、余計なことを毎日毎日考えた。

 だからって………。

「だって松田さんの想い人は私とは正反対ですよね?
 明るくて強くて美しくて?」

「紗良と正反対なんて言った?
 ぼんやりしてると思えば強くて可愛くて……。」

 微笑んで答える松田さんに何を質問しても無駄な気がして本音がこぼれた。

「あの……よく分からないんですけど。」

 分からないというより現実味がない。
 夢ですよと言われれば、しっくりするくらいに。

「いいよ。練習しよ。」

「練習?」

「紗良が王子様を信じられる練習。」

 王子様なんていない。
 夢は見ない。
 分かってる。

 それなのにリアル王子様に言われたらどうしたらいいの?

「練習……ですか。」

「どうしたら信じてくれる?」

「どうしたら………。
 というか王子様を信じる=松田さんなんですか?」

「そうだよ。」

「自分は王子様だって自分で言うんですか?」

「そうなるね。」

 マスターが言っていた「爽助くんは不器用」という言葉が頭を巡る。
 松田さんが?本当に?

「また月曜からは忙しいと思うんだ。
 だからさ………。」



 送り届けられたアパート。
 そこで車から降りた松田さんに抱きしめられて「紗良、好きだよ」と耳元で囁かれた。
 もちろん真っ赤になると「可愛い」と言われて、また赤くなった。

 1人になってもまだ耳に残ってる気がする甘い囁き。

 ベッドの上でジタバタしてみても、夢なのかなんなのか分からない。

 帰り際に言われた事。

「何時に帰れるか分からないから寝る時は必ずおやすみモードにして。
 毎日紗良への気持ちを留守電に残すから起きたら聞いてくれないかな。」

 それで俺の気持ちを信じてくれて気持ちが伝わるのならって言った松田さんの優しい笑顔が頭から離れない。

 眠れずにいると携帯が鳴って松田さんだった。
 留守電にと言っていたから出ずに待っていると留守電に変わった。

「紗良。もう会いたくなっちゃったよ。
 俺も紗良からの留守電が欲しいな。
 そしたら毎日紗良の可愛い声が聞けるのに。」

 うわー。うわー。何これ。
 紗良からって絶対に留守電できないよ。
 こんな甘い声、出せないもん。







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