伯爵令嬢シュティーナの華麗なる輿入れ
そんな親子のやり取りを見ていたサネムは、皆に向き直った。シュティーナのことは離さずに。
「父上、兄上。そしてスヴォルベリ伯爵。俺は、シュティーナと結婚したい」
サネムは言葉ひとつひとつを大事に吐き出しているようだった。
「彼女を幸せにします。いままで辛い思いをさせたぶんまで。そして、国のために」
シュティーナは、頭上に降ってくるサネムの言葉を、目を閉じて心にも響かせた。
イングヴァル王子は溜息をつきながら、やれやれといった感じでサネムの肩を叩く。
「お前、変わったな。ちょっと頼りなくて空想ばかりしていたのに」
そう言うと、カールフェルト王の隣に戻って着席し、葡萄酒を飲んだ。王もグラスを手にし、ひとつ咳払いをする。
「イングヴァル、お前はこのふたりを見ていて、どう思う」
「父上。俺は弟の婚約者だったひとを攫うような無粋なことはしたくない」
イングヴァル王子はグラスの中の液体を弄ぶように揺らした。
「彼女は美しく可愛らしいが……もっとこう、野性的な女性がいい」
片方の口角を上げて、そう言ったイングヴァル王子は、顔はサネムに似ているが性格は反対だなとシュティーナは感じた。
「そんな女性、いるか?」
「自分で狩ってくるさ」
「狩る……」
サネムは驚いて思わず噴き出した。
「シュティーナも意外と野性的だよ。食べ歩きをしたくて、屋敷を脱走してくるような娘だからね」
「サネム殿下、それを言わないでください!」
顔を真っ赤にしてしまうシュティーナの肩を抱くサネムの手に力が入った。それを見て微笑つつ、カールフェルト王がすっと立ち上がる。
「サネム、お前の結婚相手はシュティーナ殿だ。変わりはない」
「ありがとうございます、父上……」
「スヴォルベリ領に住みたければ、好きにしていいが、伯爵はどう思う?」
カールフェルト王はシュティーナを見たあと、父へと問いかけた。
「陛下のお考えに従います」
それを聞くとカールフェルト王が深く頷いた。そのやり取りを見ていたサムは、シュティーナを抱く手に力を入れ、微笑みかけた。
カールフェルト王が合図を送ると側近がそばに控えた。
「サネムとシュティーナ嬢の結婚の正式発表と準備を始めるのだ。手続きも早急に」
威厳のある声が部屋に響いた。物事が動き出す合図音にも聞こえた。
シュティーナは思った。自分にも、新しい風が吹いたと。
隣に寄り添って、一緒に生きる命と歩き出せることを幸せに思った。