淫雨





「雨里ちゃん」

「え……」


我に返る。


レアチーズのやつついてるよと彼は指摘し、わたしのくちびる近くを親指の腹でそっと拭った。

そして、あろうことか自分の口に持っていくと、


ぺろっ。


舐めた。


「なっ……!」


戸惑うわたしとは違い、三崎さんは何? という感じで。こんなことも家族だから許されることだろうか。



「雨里ちゃん。俺、雨里ちゃんとこうして一緒にご飯食べるの好きだよ。
 虹花と食べるときと同じ味がするから」


あ、虹花には内緒だと笑った彼の顔が好きで、わたしはそっと目蓋を閉じた。


残像として褪せることもできずにより一層輪郭を鮮やかに取り戻すものだから、溜息よりも鼻先へ痛みがついた。


顔を見せたくなくて、窓の外へ向ける。


「雨、やみませんね」

「どんどん酷くなってない?」

「ずっと降ってますかね」

「ずっと、かな」


彼は叶わない恋をしていて、ずっとずっと長い間動かずにいて、その横顔を知ってしまってからわたしは彼に落ちてしまった。


男の人はみなこんな綺麗な横顔を持っているものなのだろうか?


カラン、とグラスの中で氷が動いた。



(「淫雨(インウ)」とは「いつまでも降り続く陰気な雨」「長く降り続く雨」という意味がある。
「淫」という字には、「物事に深入りする」とか「度が過ぎる」という意味がある。)





 end.
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