aventure
桜智は鴻に連絡して大学生と夜飲みに行くと話した。

鴻はいい感じはしなかったが
桜智は恋人ではなく、あくまでお金が絡んだ関係だと自分に言い聞かせた。

「桜智、いいね?その大学生と寝ちゃダメだよ。」

「わかってる。」

「キスもダメだ。」

「うん。」

「お酒の席だから気を緩めないで。」

「はーい。」

鴻の少しの束縛が桜智をホッとさせる。

鴻はそれがわかってわざとヤキモチを妬いてるように話した。

桜智は少しだけ大人に見えるように
髪を巻き、化粧をした。

黒の胸の開いたワンピースを着て、少しだけヒールのある靴を履いた。

波瑠は桜智が待ち合わせのバーに現れた時、
少しドキッとした。

昼間、大学で見た桜智とは印象が違って
ずっと大人に見えて艶がある。

鴻と会うときはいつもこんな風にお洒落をして
大人っぽく見える努力をするんだろうと思った。

「お酒は大丈夫?」

「はい。」

「何にする。」

「フローズンダイキリで。」

波瑠はそれを聞いて鴻と同じ事を言った。

「ヘミングウェイの影響?」

桜智はビックリして波瑠の顔を見た。

「先輩も知ってるんですね。

フローズンダイキリがヘミングウェイの好きなお酒だったって。」

「親父から聞いた事があるんだ。」

波瑠は父の話をして桜智の反応をジッと伺った。

「先輩のお父さんはどんな人ですか?」

「優しくて尊敬できるいい親父だったよ。」

過去形なのが気になったが
それ以上聞かなかった。

亡くなってる人だと思ったのだ。

「サッちゃんは今はお母さんと?」

「え?…あー、ホントは昼間言ったこと嘘なんです。」

桜智は少し酔って来て、
父にも母にも見捨てられた自分の身の上話をしたくなってしまった。

「ホントは実家から通ってないの。

母にも父にも新しい家庭があって
私は行く場所が無くて…今は一人で暮らしてる。」

「そうだったのか。

それは寂しいね。」

「先輩はご家族は?」

「俺も似たようなものかな?

母は父の後輩と浮気してて
父は最近若い女が出来たみたいでね。

母はともかく、父にあんな女が居たのはショックだった。」

桜智は自分のことを言われているとは夢にも思わず
それを聞いて自分の父を思い出していた。

「ウチの父もね、若い女が居たの。」

波瑠はそれを聞いて桜智がそんな思いをしていたのに
自分もその女と同じ事をしていることに驚いた。


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