aventure
その夜、桜智が眠っていると
颯斗を名乗る波瑠から電話がかかって来た。

「寝てた?」

「うん。」

「桜智…明日は時間ある?」

桜智は迷っていた。

だけどこれ以上鴻を裏切りたくなかった。

「ごめんなさい。明日は予定が…」

「もしかして好きな人と?」

桜智はそれに答えなかった。

「別れるつもりはないって事?」

「先輩に惹かれたのは事実だけど…
彼とは別れられないです。」

波瑠は深い溜息をついた。

「その男ってどんな人?」

桜智は鴻の事を何も話さなかった。

「桜智…今住んでるマンションにその男が居るの?」

「ううん。たまに来るけど…一緒に住んでるわけじゃない。」

波瑠はそんな事は百も承知だ。

何しろ鴻は波瑠と一緒に住んでるんだから。

「明日、少しだけでも逢えないかな?」

波瑠はいつも押しが強くて結局、桜智はOKしてしまう。

「少しだけなら。」

そして次の日、桜智は波瑠と大学の近くのカフェで逢うことにした。

「ホテルでの事を怒ってるかと思った。

だから逢いたくないのかなって。」

桜智はずっと下を向いていた。

「桜智…俺は軽い気持ちであんな事した訳じゃない。

桜智の事、本気で好きなんだ。」

桜智も波瑠とまた逢いたいと思うが
鴻との関係も続けたい。

その時、1人の女が近づいて来た。

「波瑠?やっぱり波瑠だ。

久しぶりだね。元気だった?」

桜智はその女が人違いをしてるのかと思った。

しかし颯斗と名乗っていた波瑠は
すごく困った顔をして彼女を見た。

「桜智、ちょっとごめん。」

そう言って波瑠は彼女の手を引き、席を離れた。





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