aventure
嘘も方便という言葉を桜智はきっと知らないだろうと鴻は思った。

「彼と一線を超えたってこと?」

桜智はただ泣くだけで答えはしないが
もうその答えは桜智の涙を見れば明らかだった。

「契約違反だってわかってるね?」

桜智は泣きながら頷いた。

「鴻さん…ごめんなさい。

もう二度と…こんな事しないから…

別れる…なんて言わないで。

別れたくないよ。」

泣きながら縋る桜智を残酷に突き放せたらどんなにラクだろうと思った。

他の男なら桜智をその男に託してもいいが、
桜智の浮気相手は息子の波瑠だ。

波瑠は桜智が鴻の愛人だと知って近づいたに違いなかった。

いくらなんでも偶然のワケがない。

桜智は何にも知らずに波瑠にその身体を許したんだろう。

考えてみたら可哀想な事をしたと思った。

まだ20歳の桜智に
その若い肉体と引き換えにお金を手にする機会を与えたのが間違いだった。

何も知らない桜智は自分の父親ほどの年齢の男の相手をして
金で自由を縛られ、寂しい思いをさせられて
その息子にまで騙されてるのだ。

とにかく波瑠を諦めさせなくてはいけない。

「桜智…その大学生とは別れてくれるね?」

桜智は頷いて鴻に抱きついた。

鴻は桜智を抱きしめて言った。

「彼とは絶対にもう逢わないで欲しい。

もし別れなかったら僕は桜智とはもう終わりにする。」

「絶対に会ったりしない。」

桜智はそう言って鴻の胸で泣いた。

そんな桜智が可哀想で胸が痛んだ。

桜智は鴻に抱いて欲しくてキスをした。

鴻はそれに応えて桜智の身体に触れた。

波瑠に穢されたと思うと堪らなかったが
相変わらず桜智は綺麗で
鴻のために一生懸命に奉仕してくれる。

「鴻さん…好き…」

桜智はもう鴻無しではいられないとわかっている。

鴻に抱かれながらその事を実感する。

そしてこの身体も心も全て鴻にあげたいと思った。






< 37 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop