aventure
波瑠は早速桜智に留学の話をした。

桜智は言葉の違う知らない土地に行く事に戸惑ってはいたが
鴻と顔を合わせないためにはそうするしかないと思った。

鴻もそう思って留学を提案したのだろうと思うと胸が痛むが
既にもう鴻が戻って来ない事を理解していた。

だから鴻は自分に似た、同じ遺伝子を持つ波瑠を桜智と再び引き合わせたんだろう。

一方、翠はその話に激怒した。

絶対に許さないと泣いて怒った。

「あなたがあの子と行けばいいじゃないの!

波瑠を私から取り上げないで!」

翠には到底承諾出来ない。

それでも鴻は桜智のためにどうしても翠を納得させなければいけない。

「君にそんな事言う権利があるのか?

波瑠は彼女を本当に愛してる。

ただ父親と同じ女を愛しただけだ。」

翠は泣きながら鼻を真っ赤にし、
2人のことを反対した。

そして今までの自分行動を恥じ、
波瑠との間に空いた穴を埋めようとしなかった事を後悔した。

「どうしてあなたはそんな事が出来るの?

自分の抱いた女を息子と一緒にするなんて有り得ない!」

鴻は翠が何を言っても聞いてはくれなかった。
2人の間にはもう何も残ってない。

「私はもうあの子には会わない。
決して…会うことはない。」

そう言って鴻は棚から封筒を出した。

封筒はずっと前から用意されていた記入済みの離婚届だ。

「君とももう終わりにしたい。

凪が成人するまでと思ったが、
その我慢が凪を余計苦しめてる気がする。

現に凪は2人の顔色ばかり伺って
それがストレスになってる。

このまま壊れた家族を継続したって
凪も私たちも辛いだけだ。

凪には私から話そう。」

そして波瑠は桜智と留学する事が決まり
鴻は翠と別れることにした。

常にギスギスした形だけの夫婦が
凪の心を余計傷つけている事を知ったからだ。

鴻が話すと凪はそれを聞いて
涙を見せたが、ホッとしたようでもあった。

そして前に進むためにそれぞれがバラバラになると決めた。
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