コガレル ~恋する遺伝子~
千円札を一枚置くと席を立った。
一刻も早く、この場から去りたい。
まるで逃げるように駐車場から車を出すと適当に流した。
どこを走ってるのか、もう分からない。
ただ運転してるうちに徐々に、冷静な思考能力が戻ってきた。
親父は台湾に居る。
もし家に居たら、浮気して手切れ金を渡したのか問い詰めるのか?
弥生は妹なのかって…聞くのか、俺は。
その時、スマホが鳴った。
チラッと確認したら涌井からだった。
車を路肩に寄せて、通話をタップした。
「今、いい?」
「大丈夫」
「マンション、良さ気なのがあったからさぁ、」
あぁ…そう言えばそんなの頼んでたっけ。
あの時は家を出るつもりだった。
今は…
「内見、一応明日の午前中にお願いしてあるから。ちなみにコンシェルジュ付きマンション」
「分かった、ありがとう。そこに決めるよ」
「うん、後で住所って、えっ? えー! 内見は?」
涌井のセンスは信用できる。
っていうか、どこだっていい。
ふっと思いついた。
「涌井、今どこ?」
「え、自宅だけど」
「今から行くわ、引越し祝いしよう」
「ハァ? まだ引越してないし。
しかもなんで俺んちなんだよ」
ブツブツ言われたけど、電話を切るとナビを操作した。
途中のコンビニで酒とツマミを仕入れて、涌井のマンションに向かった。