コガレル ~恋する遺伝子~


 准と親父が部屋に入ったのを確認して、夕食の片付けをする弥生に話しかけた。
 思った通り、不機嫌だ。
 不機嫌なのが嬉しい。
 俺が居なくなるのに、平気な顔をされたらへこむ。

 そんな勝手な言い草を心の内に隠した。
 話は誰にも聞かれない方がいい。
 防音室へ弥生を誘うと、大声を出して嫌がられた。

 驚いて、ちょっと怯んだ。
 冷静を気取ってても、気持ちは折れそうだ。
 傷つける必要があるのか?
 今すぐ抱きしめたい、安心させてやりたい…

 そんな自分の弱さを払拭するように、弥生の手首を掴む。
 抵抗を押さえ込んだ。
 今日この家で全てを終わりにする。
 それ以外に道はないんだから。

 防音室でピアノチェアへ肩を押して座らせると、一歩離れて弥生の前に立った。

 全ての元凶。
 ポケットの中に白岩の名刺。
 これを晒せば終わりが始まる。
 触れる指先が迷った。

 躊躇って弥生の潤んだ目から視線を落とせば、手首をさすってるのが見えた。
 圧迫されて薄く赤く染まった皮膚。
 痛くして、ごめん。
 もう早く終わりにしよう。


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