コガレル ~恋する遺伝子~


 指に挟んだ名刺を手渡すと、しばらく眺めてた。

「なんで圭さんが?」

 当たり前なのに、気持ちは落胆した。
 名刺を見て、白岩なんて誰だか分からないと言ってくれるのを、わずかに期待してた。
 そんなことありえないのに。
 終わりだ。
 冷たく突き放せ。


「私が好きなのは、」

 終わりだから。

「寝たんでしょ?」

 最低な一言に、弥生は睨んできた。
 毎度のことだけど、上目遣いで睨まれても残念ながら全然怖くない。
 ましてや、ポロポロと涙がこぼれる目で睨まれても、怖くなかった…

「ひとつ屋根の下、家族みたいなもんでしょ?
どうなの、かえって燃えるとか?
気持ち悪くて、俺なら、無理」

 弥生は声を上げて泣き出した。
 泣いてほしくないけど、泣いてほしい。
 俺を忘れてほしくないけど、忘れてほしい。

 涙を拭ってやって抱きしめたい衝動に、歯止めをかけるキーワード。

 “妹"

 そこで大泣きしてるのは妹だから。
 准と同等。
 それ以上でも以下でもない。
 呪文のように心の中で唱えながら、部屋を出た。
 扉を閉めて、愛しさと一緒に泣き声を封じ込めた。


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