コガレル ~恋する遺伝子~



 違った。
 抱きしめた感触が違った。

 スッポリと俺の腕の中に収まる柔らかい存在。
 着ている服の柔軟剤と陽向の混ざった匂い。
 風呂上がりの乾かした前髪に、鼻を埋めた時のシャンプーの香り。

 キスすれば背徳と羞恥で潤ませる目。
 歯を立てて噛んでしまいたくなる程の甘い唇。

 全部、手放してしまった。
 空虚だった。
 残されたのは残骸。

 風穴だらけで存在の理由も見い出せない、真田圭という名の残骸だった。


 成実とのキスシーンは何回もNGを出した。
 呆れた成実は俺にだけ聞こえるように言った。

「新人アイドル女優じゃないんだから、しっかりやって」

 成実に説教されるようになったら、いよいよ俺もお終いだな。

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