コガレル ~恋する遺伝子~
「東京に戻っておいで」
遅かれ早かれ、それを言われる気はしてた。
あの洋館が大好きだから、戻れるなら嬉しい。
掃除は大変だけど、手をかけた分だけ保たれる、普通のお宅とは違う気高さがあった。
それを窮屈に感じなかったのは、住んでる専務や准君の人柄のせいだと思う。
もちろん圭さんも。
「私、高校生の頃、成実さんに憧れてたんです」
圭さんは口を開きかけたけど、私が強引に続けた。
「モデルになりたいなんて思いませんでしたよ。まあ、なれる訳もないんですけど」
目の前にもいる元モデルに笑われるかと思ったけど、ただ黙って耳を傾けてくれた。
「いつからかモデルさんに服を着せて、髪の毛を整えて、キラキラにさせて、カメラに収めて…情報を発信する方に興味を持ったんです」
「分かるよ、俺のマネージャーも似たようなもんだ」
わくいさん?
仕事のことで頻繁にかけ合う電話の相手を、そう呼ぶのを聞いたことがあった。
「大学時代、漠然と出版社に勤めたいと思って、就活しました。でも全滅でした」
「ケーキ屋は不本意だったと?」
圭さんはわざと家業で私をからかうから、しっかり首を振って否定した。
確かに第一志望ではなかったけど、あの洋菓子メーカーを希望したのにも理由はあった。
「あの職場も好きでした。
今は今で夢の仕事ができて楽しい」
「くまたん、が?」
圭さんの言いたいことは分かる。
国内は愚か、海外の一流誌にも載ったことのある圭さんには、地元のフリータウン誌なんてお遊びみたいな感覚って…
それでも私はやりがいを感じてるし、投げ出すことはしたくない。
「私が初めて飛び込みで取材したお店、流行ったんです。
初めは怪訝な顔してた店長さんに、この前行ったらお礼を言われました」
「ふうん」
「それに…」
もう一つ、ここを動けない理由がある。