コガレル ~恋する遺伝子~
【嵐の後で】side K

 羽田を離陸してからしばらく経った。
 熊本までは約一時間半。
 昨日の晩、家に寄って親父と話したことを思い返した。

 弥生を迎えに行くにあたって、彼女の伯母さんの話だけでは理解し切れない、霞がかった事実を晴らしておきたかった。

 埃っぽい三階の自分の部屋に泊まることにして、ワインを飲みながら親父と話をした。
 聞きたいことはたくさんあった。
 弥生が洋菓子屋に勤めたのは、親父の差し金だったのか?
 弥生自体は縁故採用と思われるのは不本意のようだったけど。

「知らなかった。人事にはノータッチだった」

「まったくの偶然?」

「偶然と言えば、偶然。必然と言われれば必然、だな」

 どっちだ、全く。
 俺のはやる気持ちを理解してないのか、わざとなのか、まどろっこしい。

「弥生君はうちのシュークリームが子供の頃から好きだったそうだ。
お母さんがよく買ってくれたって」

 はぁ? シュークリームが好きだったから、何?
 それで就職を希望したら受かった?

 ズレてる感があの人らしいと言えばらしいけど。

「うちの商品は価格設定が他より低いからね。いろんな環境の人達が買いやすい。
品質を落としてる訳じゃない、企業努力でだ。
ここを出て行く時に話をしたら、弥生君はそこら辺をよく理解してたよ」

 親父は饒舌に語り始めた。
 酔いもまわって来たんだろう。
 そう言われてみれば大昔に、あの大叔父が商品の値上げを提案したのを、親父が必死で阻止したって話を聞いたことがある。

 俺が知らないだけで、全てに意味があるんだな…

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