コガレル ~恋する遺伝子~
そんな時、聞き覚えのある声がした。
「奥様、」と呼ばれた葉山さんは、明らかに奥様を探してるし。
…あんたでしょ。
思わず深くため息が出た。
本人も自覚してないけど、俺も認めたくなかった。
何かが胸に引っかかる。
親父とこの人の夫婦らしい姿をまだ見てない。
もしかして、なんかのドッキリだったりしない?
「和乃さん、」
自己紹介しあう二人に、親父の嫁さんであることをなんで俺が否定してんのか分からなかった。
でもこの人は今現在、奥さんじゃなくてただの婚約者なのが事実。
それも正直納得いかないんだけど…
俺をじっと見上げてくる和乃さんから、目を逸らした。
いつだって和乃さんは要らないことは口にしない。
その分、見透かした何かを腹の底に秘めてるような気がして落ち着かなかった。