コガレル ~恋する遺伝子~


 安藤 綾さん。
 彼女は、私より二年入社の早い正社員。
 私が入社した時から指導係として仕事を教えてくれた。

 彼女は年の差も、契約社員だからという隔たりも感じさせないくらいフランクな女性だった。
 ランチや仕事終わりに一緒に出かけることもあったし、休日に待ち合わせてショッピングすることもあった。


「弥生ちゃん、仕事は心配しないで良いのよ。
でもね、寂しすぎるよ」

 引き継ぎを終えると、ぎゅっとハグされた。

「綾さん…」

 そんな私たちを課の人達が遠巻きに見守ってくれた。

 仕事には厳しかったけど、契約社員の私にも働きやすくて良い課だったな…

 そんな思いも込めて抱きしめ返そうとしたその時、唐突に身体を押し剥がされた。
 でも両肩は掴まれたまま、その綾さんの手に力がこもった。

「後日、送別会をやりましょう!
杉崎課長のために」

 ん、?
 私のため…じゃなくて?

 頭の上にクエスチョンマークが乗っかってる私を解放すると綾さんは、「フフン」と何かを含ませた笑みを浮かべた後デスクでの業務に戻った。

< 6 / 343 >

この作品をシェア

pagetop