極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
彼が運転席に回り込む僅かな間に、深呼吸を一度すれば、彼の匂いがした。
あの頃、ここに倉野さんが乗ったのを見てからこの助手席に座るのが嫌だった。


どうしてあんなにもショックを受けたのか……ここに乗り込んだ彼女の表情がとても嬉しそうで、仕事の顔に見えなかったこともきっと一因ではある。


だけど今となってはそれほど何も感じない。
あれは私のヤキモチやコンプレックスからくる被害妄想だったのだろうかと思わせる。


年月のおかげかカナちゃんと話したおかげか、あの頃の感情的になっていた自分を、今は冷静に見つめることができる。
まるで、過去の恋の答え合わせをしているような感覚だ。


ただ、例え冷静でもどうしても過去と現在が混濁して解りづらい感情もある。


運転席のドアが開き彼がシートに乗り込んで、その横顔につい見入ってしまう。
久しぶりのこの空間に、胸の奥が締め付けられるように苦しくなる。


これは過去の私の感情が思い出されているだけなのか、それとも現在の私のものなのか判別が付かずにいた。

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