極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
春から初夏へと気温は上がり始めても、今夜の風は少しひんやりと頬を冷やしていた。
触れた彼の指先を、温かく感じるほどには。


さっきまでのふざけた笑いは引込めて、真正面からの彼の視線に捕まって私の全てが停止する。


指先が頬の中央から耳の近くへと滑り、親指が触れた。
ゆっくりと、私の反応を窺うように肌を辿って下唇に触れた時、甘い痺れに目を細めてしまう。


あ……。
だめ、だ。


こんなにも簡単に、彼は私を自分の空気に取り込んでしまえる。
そのことを思い知りながらも、近づいて来る彼の唇から逃れられる気がしない。


通路の照明が、彼の後ろに隠れて影が差した、その時だった。


ぱぱっ!
とクラクションの音が鳴って、はっと我に返ったのは、多分私も彼も一緒だった。

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