極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
それから、段ボールひと箱分を終えると、残りはまた明日、販売員の女の子たちにお願いすることにした。
明日一日分くらいはゆうに有るはずだし、明日は販売員の人数に余裕があるはずだから開店中でも交代でしてもらえば然程苦でもないだろう。
朝比奈さんが連れていけというので本当に立ち食いうどん屋に行って美味しくいただいたわけなのだが、彼は終始微笑んでいるのに変に気を遣ってしまう。
「えー、と。なんか、朝比奈さんと立ち食いうどんって新鮮でした。お付き合いいただいてありがとうございます」
「どういたしまして」
帰りの車の中でそう言うと、微かに口角を上げた横顔がちらりとも私を見ないままでいる。
やっぱり何か変だと首を傾げつつ、私も口をつぐんでいれば、いくらほど走っただろうか。
彼が突然、車を路肩に寄せたかと思うとハンドルに腕を預けて息を吐いた。
「朝比奈さん?」
「ごめん。案外余裕ないんだ、君が思うほど僕は大人じゃないし」
「え?」
「君の口から伊崎の名前が出る度イライラする」
はー、と再び長く深く息を吐き出し、彼はシートベルトを外した。
ハンドルに凭れ掛かったままこちらを向いた彼の表情は憮然としていて、その言葉が上辺じゃなく本音なのだと教えてくれている気がする。
見慣れない彼の一面に、私は数秒絶句した。
「えっ、だって、そんな、感じじゃ」
狼狽えて出た言葉は支離滅裂だったが色んな意味が含まれている。
伊崎とはそんな感じじゃない、という意味でもあるし、朝比奈さんはそんなタイプじゃなかったはず、という意味でもある。
いつも余裕だったし、そうだ、三年前も。
伊崎とふたりで飲み会を抜けたとからかわれた時だって、全く気にも留めてなかった。
「顔に出さないだけだよ。こっち戻ってきてからも、面談の時だってそうだ。何かと言えば伊崎の名前が出て来る。二言目には伊崎、伊崎、」
「えっ! え、そんな言ってません」
「言ってる」
「言ってませんてば!」
むす、とした顔が私の方へ乗り出してきて、気付けば結構、近い距離にいる。
そして急に、くしゃっと苦笑いが浮かぶのだ。
「って。こういうのをちゃんと言えてればよかったね」