極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

がたん、と腰が抜けたように椅子に腰かけた。


「……心臓にわる」


あんな、何でもないセリフに激しく反応してしまった。
面談の都合を合わせるための、なんでもない言葉だったのに。


『今夜は? この後時間ある?』


昔、朝比奈さんと付き合い始めるきっかけになった日のこと。
憧れの人に誘われて、有頂天になったあの時、かけてもらった言葉と似ていて。


時間ある?
って聞く時に、少し首を傾げる仕草が好きで、昔のままだった。


やばいやばい、たった一日目、しかも朝礼終わっただけでここまで動揺させられていて
どうする。


仕事しなきゃ、とパソコンを立ち上げながらさっきのファックスの続きに目を通そうとした。


「うわっ、何?」


向い合わせになってるデスクのパソコンの影から、じとっと睨む目があった。
伊崎、怖いよバカ!


同時に、ピロン、と社内メールを受信する。


『今朝の状況から見て、先日の案を再考するべきだと思いますが』


伊崎のバカからだった。
社内メールは記録されておりたまにチェック入るので、個人的なこととわからないように書いている。


言わずもがな、今朝の状況とは今の私の動揺っぷりのことであり、先日の案とはアレだろう。
付き合っとくことにするか、云々、ってやつ。


あの案、まだ考えてたのか。


『問題ありません。こちらで対処可能です』


入力して、エンターキーを押す。
送信完了。


また何かあるかと思ったけれど、それ以降伊崎が返信してくることはなく。
午前に面談がある、ということなので私はそれまでにできる仕事を片付けていく。


朝比奈さんはあれからオフィスには戻って来ず、実際に声をかけられたのはもうじき昼になるという頃だった。

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