極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
伊崎は、別れた時の私の状態を知ってるから、心配するんだろう、それはわかる。
わからないのは、朝比奈さんだ。
「……理由さえ聞かなかったくせに」
エレベーターの中で、ひとりごちた。
私が別れたいと言った時、朝比奈さんは何も聞かなかった。
引き留めようともしなかった。
そんな別れ方だったから、再会したところで私が気にしなければ何事も起こらないと思っていたのだ。
今更どうして、私と話をしたがるのだろう。
もしも当時を懐かしもうとかいうことなら、私にはそれはまだキツい。
新たな恋でも出来ていたら、笑って思い出すこともできていたかもしれないが。
……憂鬱。
今夜の歓迎会のことを思えば重たくなる胃を抱えながら、午後から東武百貨店の店舗を訪れる。
私が最初の一年に勤めていた店舗で、その頃仲の良かった販売員が今は店長を務めている。
同じ年だが、高卒でずっと販売の仕事をしている彼女の方が、実はずっと先輩だ。
大卒の私は一年したら本社勤めと最初から決まっていたので、その一年の間で彼女にはかなりしごかれた。
本社に戻っても、店舗の気持ちと現状を理解できるエリアマネージャーでいられるように、意識の奥底に刷り込んでやる、とかなんとか。
冗談混じりにそう言っていた、厳しいけど面白い子だ。
「西口さん、お疲れ様です!」
百貨店地下食品販売のフロアの中央に、二番目くらいに大きなスペースをいただいている。
商品サンプルの並んだカウンターの向こう、店長の西口さんに声をかければ、私に気づいて笑顔を返してくれる。
「お疲れ様です吉住さん」
言いながら、他の販売員に言葉をかけてから、カウンターから出てきてくれた。
「こないだの、催事の商品のことで来たんですけど」
「うん、ちょっとバックヤード行かない? 私今から休憩なのよ」
そう言って、彼女は従業員専用と書かれた扉を指差した。