極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

【現在】

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「……ほ。真帆」


名前を呼ばれたような気がして、目を開けようとした。
だけど頭が重くて、中々瞼も開かない。


そうこうしているうちに、人の声がした。
とても懐かしいような、声だ。


昔の夢を見ていたからだろうか、その声に涙が出そうになる。


その声は、誰かとやりとりをしていて、それから暫くしてすぅっと空気が流れた気がした。


「真帆、降りて。着いたから」


着いた。
どこに?


その言葉で、自分がタクシーに乗っていたことを漸く思い出す。
腕を引かれ、上半身を抱き留めるようにして、タクシーの外に出された。


これは、誰。
一緒に飲んでたのは……朝比奈さん、だ。


バタン!
とタクシーのドアが閉まった音に驚いて、やっとはっきりと目が開いた。


私の上半身を抱きかかえている、力強い腕や肩を掴む手のひらの熱、体温で立ち上るシトラスの香りに引きずられそうで、ドン、と胸を突いて距離を取った。


驚いた顔で私を見下ろす彼の視線とぶつかったが、それよりも私はタクシーへ目を向ける。


「待って! あ!」


引き留めようとしたけれど、あえなくタクシーは走り去る。
なんで帰してしまうのだと、つい視線が朝比奈さんを責めた。


彼は困ったように眉尻を下げ、肩を竦める。


「道幅が余りないし、待たせるのは無理だろうと思ったから」


ここは、私のアパートの目の前だった。
ちゃんと送ってくれたのだ、とそこは感謝するけれど、これでは朝比奈さんをこのまま帰すことに申し訳なさを感じてしまう。
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