極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
彼を、何度か泊めたことはある。
けれど今は、そうしていい関係ではない。
「部屋の前まで送る。足元がまだふらつくだろう」
「大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
ぺこん、と頭を下げてから、数秒沈黙する。
この後どうするべきなのか、朝比奈さんから「帰る」という言葉を言い出してくれるのを待っていた。
「……あ! た、タクシー呼びましょうか」
「いらない。大通りに出ればすぐつかまるよ」
いい提案を思いついた、と口に出したのだが、即座に返される。
だけど帰るつもりではいてくれたらしいことに少しほっとして、気が緩んだ。
「そうですか……それじゃあ」
動き出さずに留まったまま私を見下ろす彼の視線から、逃げるようにアパートの二階へ上がる階段に向かおうとした時だった。
ぱしん、と確かな強さで手首を掴まれた。
「あっ!?」
引き戻されて、すぐさま感じたのは、スーツの上からでもわかる厚い胸板の感触だった。
離れようとしたけれど、そのまま強く抱きすくめられて身動きすら取れなくなる。
「やっ! 朝比奈さんっ!」
「このまま」
ぎゅう、と痛いくらいに胸板に顔を押し付けられた。
引き剥がそうと暴れる私を止めたのは、彼の力強い腕ではなくて吐き出された長い溜息だった。
「少しの間、こうさせて」
掠れた声が夜の路地に響いて、不意に神経が研ぎ澄まされる。
誰か来たら、と焦ってしまうけれど足音は聞こえない。
片腕が背中から腰を抱きしめて、もう片方の腕が頭を抱き込む。
髪に頬ずりをされ、その仕草に愛おしさが込められているような気がして、戸惑った。