極上スイートオフィス 御曹司の独占愛


「じゃあ昼に」


振り向きながら片手を上げて、伊崎は早足で遠ざかる。


隣のエリアだとはいえ、一旦この最寄り駅で降りたのはそれなりに時間のロスなのだろう。


「無理しなくていいのに」


通勤ラッシュのサラリーマンの波に消える背中にそう呟いて、私は重いショップバッグの柄をしっかりと持ち直し、百貨店の中へと急いだ。


伊崎とは、本社に配属されてからずっと一緒だ。
入社して最初の一年は私も伊崎もそれぞれ店舗に配属されて店長補佐など、店舗側の仕事を経験として積んでいた。


エリアが隣だということもあり、助け合うこともしばしばだけど、何かと競う相手として意識もしあっている。


そして、本社に来たばかりの頃、エリアマネージャーの先輩として出会ったのが、あの人だった。


若かったなあ、と思う。
よくもあんなに一生懸命になれたと思う。


今だったら、あんなにしんどい恋愛はごめんだ。
身の丈に合った人がいいと思う。


仕事で死ぬほど忙しいのに、恋愛でくらい癒されたい。


私よりも五つ年上の彼は、エリアマネージャーの中でも彼の担当エリアは群を抜いた売り上げだった。
各店舗との信頼も厚かったし、後輩の面倒見も良い。


超繁忙期の激務の中でも、穏やかで落ち着いていて、何かしらあればみんな彼を頼りにしていた。
加えて背も高く、彫刻みたいに彫りの深い整った顔、とくれば。
女子社員の憧れの的だ。


そんな人が、なぜ私なんかを気に入ってくれたのかはわからない。
わからないから、私は精一杯、背伸びをして、あの人に釣り合う女になるように必死だった。


朝比奈由基《あさひなよしき》
彼が、もうじき大阪支社から本社に戻されてくる。


エリア統括……私たちの上司として。

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