極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
定時、結局伊崎に連れ出された私は、彼が店を知っているというので後ろをついて歩いていたのだが、なかなか埒が明かない。
ナビでも見ているのか、歩きながらスマホを見ていてやたらゆっくりだったり立ち止まったりするのだ。
「ちょっと、知ってる店じゃなかったの?」
「うるせーな、行ってみたい店があるんだよ」
「……あんま高い店とかやめてよ」
一応、手伝ってもらったりしているので奢らなければなるまい、と思っている。
目の前にはハイアットリージェンシーホテルが聳え立っていて、見上げれば日は沈んでいてもまだ少しばかり夜には足りない空の色だ。
街灯が目にキラキラと目立ち始める時刻、こんな早くに仕事を終えているのは久々だった。
「伊崎ー、ハイアットってシャンデリアが綺麗なんだって知ってた?」
街灯のキラキラで、どこかで聞いたことをふと思い出した。
そんなことより行きたい店はまだか。
「えー? あー……入ってみる?」
「は? やだよこんなとこで食べんの高いに決まってるでしょ」
「いや、カフェとかならそこそこくらいで……って別に奢れとか冗談だし、て」
語尾で、伊崎の視線が少し逸れた。
釣られて私の視線も動き、そこでどくん、と心臓が、ひとつ跳ねる。
倉野さんがいた。
彼女はスマホを耳にあてて誰かと話しながら歩いていて、私には気づいていなかった。
嬉しそうに微笑みながら「もう着くから。待ってて」と通話の相手に話し優雅にハイアットに近づいていく。
勘が働いた。
人の後を尾行するなんていけない、と思うのに、確かめなければ今夜は眠れない気がした。
朝比奈さんは今日、仕事が終わったら直帰するから、と言っていた。
結び付けてはいけないものを、勝手に頭の中が繋げてしまう。
あの日、朝比奈さんの車に乗り込んだ倉野さんの姿がどうしても、今目の前の彼女と重なってしまうのだ。
「……やっぱ、別のとこにするか。ほら、吉住」
「シャンデリア、見に行こうかな」
都合の良いことに、シャンデリアを見たい、という言い訳も目の前に残されていた。