極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「俺がやって後でお前が確認すればいいだけだろ。貸せって」

「あっ!」


伊崎は、私が手を付ける前の仕事の書類をひとつ、手に取った。


「あー、もうホワイトデーの準備か。まだバレンタインも終わってないのにな」


言いながらさっさと自分のデスクに戻ってしまった。
彼の手にあるのは、ホワイトデーのディスプレイの書類だった。


バレンタインが終わればすぐに切り替わるから、それまでに各店舗に手配しなくてはいけない。


「催事会場と店舗と規模が違うよな。予測で勝手にしとくからあとでチェックして直して」

「……わかった。ありがとう、助かる」


伊崎は、勘が良いと思う。
知らなくても手が出せる範囲かどうかとか勘で理解するのだろうか、多くを説明しなくても済むから楽だし、手際も良かった。


他のサブの子から浮いた私は、伊崎と話している時だけは少しだけ、気が抜けた。


「今日終わったら飯行かね?」

「行かね」

「秒速! 少しは悩めや!」

「だって朝比奈さん仕事してるのにひとりで帰るとかない」

「……彼女かよ」


冗談混じりの会話だったけれど、ちょっとドキっとした。


「だってちょっとでも手伝いたいし」

「手伝ってる俺に飯を奢ろうという気概はないのか」

「あ、アメいる?」

「吉住」


伊崎と軽口を交わしていたら、朝比奈さんの声がして慌てて立ち上がって振り向いた。


「はい! すみません、なんでしょう!」


別にサボってたわけではないけど、条件反射なのかつい謝罪して背筋を伸ばした私に、彼は苦笑しながら言った。


「なんでいきなり謝るの。今日、僕はこれから出るけど」

「あ、私も?」

「いや。ひとりで出る。その後直帰するから吉住も待たずに定時で帰って」

「え」


ぽん。
と、二の腕を軽く叩かれて、オフィスを出て行く朝比奈さんを見送った。


「暇になったね」


何食うかなー。
と、後ろで伊崎が笑っていた。

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