美魔女オネェに拾われたなら
「なんか、キャンキャン吠えてるのがいると思えば。仔犬ちゃんじゃないの」


そう妖艶に微笑むあっちゃんから漂う空気は、絶対零度。


寒い、寒すぎる。
美形の怒った顔怖いよ。

あまりの迫力に思わず私は、さっちゃんの影に引っ込んでしまった。


いつも優しいあっちゃんがあんなに怒るなんて。
優しい人を怒らせちゃダメ!絶対!


あのモデルさん、もう無理だと思う…。
とつい両手を合わせていたら、真横から小さく吹き出す声がした。


「なっちゃん、面白すぎるから…」

吹き出したのと、小さな囁きはいっちゃんだ。


「え?だってこの感じ、あの人もう再起不能にコテンパンのコースしか思いつないんだけど、違うの?」


小声での会話ながらも、コテっと首をかしげて聞くと


「そうねぇ、いくら図太くても確かにアカリに掛かれば勝てやしないわね。あの子の方が歳も上で美に関しても上だものねぇ」


楽しそうに言うのは私の前にいるさっちゃん。


「違いないわねぇ。喧嘩売っちゃダメな所に売りに来るお馬鹿ちゃんだから、元から負け戦だけどねぇ…」

そう分析しているのはレンさん。


「やっぱり、あの人空気も読めないし、駄目駄目なんだねぇ」


思わず小声で会話していたにも関わらず、あっちゃんにも届いたらしく笑いはしないものの少し肩がピクっと動いていた。


いけない、邪魔しちゃだめだ。


少し黙っていようと、後ろで四人黙るとあっちゃんが話し出した。


「葵チャンだったっけねぇ。誰でもいいけれど。うちの所属アーティスト達を侮辱するなら、それ相応の覚悟はあるのかしら?」


声が、一段下がって迫力が増すあっちゃん。

自分が言われてないのに思わず身震いしてしまう。

そのあと私はきゅっと、さっちゃんのスプリングコートの袖口を掴んだ。
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