美魔女オネェに拾われたなら

「その件は智子さんが電話での問い合わせ時点で濁して流したはずですが。大人なら分かりそうなものを知り合いの力を使って直接交渉ですか?」


私は今、さっちゃんにもあっちゃんにも見せたことのない顔をしてるだろう。
でも、こんな相手の状況も気持ちも考えずに強引にテリトリー内に来る相手に、私は気遣いなんて出来ない。


「だって、あなたの父親だと私もあなたに直接会った事で確信出来るほどよ。あなたは瞳の色も顔立ちの雰囲気も似ているのよ?」


一生懸命に話す彼女は番組のため、そして父親だと名乗る人の為に来たのだろうが…


「自分に娘が居た、だから探し出して会いたい。これだけの期間放置しておいて?今更父親だと、名乗り出て会いたい?傲慢にも程がある。探して会いたいと思えばもっと前に出来たはず。それをしなかった相手に今更会おうとは思わない」

いつになく冷たい声が自分の耳にも聞こえているが、止まらない。

「待って、それは彼にも事情が・・・」

話を遮って、告げた。


「あなたはアカリさんやサチコさんと知り合いかもしれませんが、私は初めてお会いしました。そんな人の相手の立場を思いやれない一方通行の話しは聞きません。お引き取り頂けないでしょうから。私が失礼します」


呆気に取られた三人を置いて、財布とスマホだけ持って私は家を出た。


とにかく一人になりたかったから、エレベーターを使わず階段で一気に下まで駆け下りたあともさらに走る。

少し経って道路を振り返ると丁度空車のタクシーが来た。
手を上げて停めて乗り込んだ時、後ろにあっちゃんの姿が見えたけれど…


「すみません、出して下さい。青山の方に」


そうしてタクシーは走り出した。


なんでだろう。
感情が色々こんがらがってきてる。

夜景を見ながら何とか落ち着こうと深呼吸しても、流れてくるのは何故か涙だった。
この涙の意味も分からぬまま、車窓を眺め続けた。


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