ティールームの不思議な出来事
 看板も何もなければ、お店の役目を果たしていないんじゃ。

「それはそのうちにお分かりになりますよ。他にお客さんがいない理由もね」

「?」

 頭の中でハテナマークが巡っている。

「さぁ、どうぞ」

 目の前に湯気の立っているカップが置かれた。

「体が暖まりますよ。もちろん、お代はいりませんよ」

「でも・・・」

「いいんですよ」

 優しい眼差しで微笑んでいる。

 一口ゴクッと飲んだ。

「おいしい」

「そうでしょう?」

 スーッと胸を通り、体が中から暖かくなっている。

 甘過ぎず濃すぎず、ちょうど飲みやすい紅茶だった。

 もう一口飲んだ。

 優しい味だ。

 不意に目の前が滲んでくる。

 涙が頬を一筋、流れた。

「つらく、悲しいことが、あったのですね?」

 見上げたマスターの顔に、別の顔が重なって見える。
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