腹黒王太子の華麗なる策略
宴に出ているはずのクリスがなぜここにいるのだろう?

「クリス?……どうしてここへ?」

クリスの質問を忘れ、彼に逆に疑問をぶつける私。

そんな私を面白そうに見て、彼はこの上なく甘い声で言った。

「俺を呼んだだろう?」

『俺』という言い方に違和感を覚えたが、そのサファイアの瞳は優しい光を宿している。

これは、私の知っているクリスだ。

「……呼んだけど……聞こえるわけがない」

それに、ほんの一瞬でここに来れるわけがない。

クリスがここにいるのが信じられなくて、呆然としながら彼を見る。

「アンの声ならどこにいたって聞こえる」

穏やかな声でクリスは当然のように言う。

「勝手に城を出たことを怒りたいところだが、今はアンの大事な家族の手当てをしないとな」

クリスは私を左手と足で器用に抱き上げ、空いた右手で横で苦しんでいるモコに触れた。
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