先輩から逃げる方法を探しています。



「面白かったねぇ」

「そうですね。耀先輩にちゃんとお礼を言わないと…」

「お礼よりも感想言ってあげたほうが喜ぶんじゃない?」

「はい。もちろん感想もきちんと伝えます」


上映まで時間が少しあった時に前売り券代を払おうとしたところ、また「いらない」と言われてしまった。

理由は先輩は元々前売り券を1枚買っていて、そのあとに耀先輩が1枚くれたから、だそう。

だから「お金はいらないし、お礼を言うなら耀ちんに」と。


「それにしても耀ちんすっごくかっこよかったよねぇ」

「いつもの耀先輩とは雰囲気も違ってましたね。大人っぽくてかっこよかったです」


映画は小説を実写化したもので、ジャンルでいう恋愛ミステリーものだった。

耀先輩は実年齢よりも年上の役だったけど、全く違和感なく演じていたし、大人っぽくてかっこよかった。

先輩は耀先輩はもちろん、映画自体を気に入ったらしく、劇場で売られていたパンフレットと原作の小説を買っていた。


「先輩って耀先輩のこと本当好きですよね」

「もっちろ~ん。…まぁ、それで困ることもあるけどねぇ」

「困ることですか。何ですか?」

「それはそうと次はどうする?」


あ。確実にはぐらかされた。

耀先輩を好きで困ることって何だろう。

ファンとして接しにくくなる…って先輩はそんなことなさそうだし。


「翼ちゃん、次は決まった?」

「あっ。ちょっと待ってください」


それよりも先に次に行く場所を決めないといけなかった。

水族館かプラネタリウム…どっちも捨てがたいな。

先輩はどっちのほうが行きたいんだろう?

合宿に行く前は星に興味がなさそうだったから水族館?

でも、私と同じで興味が出た可能性も否定はできないし…。

悩んでいる途中、先輩と目が合う。

…やっぱり見ただけじゃ、先輩がどっちに行きたいのかなんてわからない。

もうこれは本人に聞いたほうが早いよね。

「翼ちゃんが行きたいほうならどっちでも」なんて言ってきそうな可能性はあるけど。


「先輩は水族館とプラネタリウムどっちに行きたいんですか?」

「えー俺の意見いる?」

「いります」

「俺はどっちも行きたいんだけど」

「どっちも、ですか」

「うん。だってそのほうが翼ちゃんと長くいれられるし」

「え…」

「だから2つ以外でもいいんだよねぇ。俺は場所よりも翼ちゃんといられる時間のほうが重要かな」


さらっと普通にそんなことを言う。

どうやらからかって言っている様子でもない。

つまり、素直に本心を言ったんだろう。


「まぁ、翼ちゃんの時間とか体力とかも関係あるし俺の意見は無視してもらっていいんだけど~」


なんて付け加えられても、あんな言葉を聞いてどちらかだけを選ぶことはできない。

先輩の言葉を聞いて、嬉しく思ってしまったからだ。

誰かに自分といられるだけでいいと言われたら嬉しく感じるものなのか。

それともそれは先輩が言ったから嬉しく感じたのか。

経験がないから比較ができない…。


「ん?決まった?」

「…どっちも行きましょう」

「それは嬉しいけど、本当にいいの?俺の意見は無視していいって言ったのに」

「えっと……私もどっちも行きたいんです」

「それって…いや、うん。どっちも行こうか。ここから近いほうは~」


何かを言いかけたようだったけど途中でやめ、携帯で地図を確認し始めた。

先輩の凄く嬉しそうな横顔。

そんな顔をされてしまっては私まで嬉しくなりそうだ。


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