日だまりの雨
「ずっと……日咲の笑顔に憧れてた。栞を拾ってくれたときの明るくて優しい笑顔。……大好きだった」



小さく、でも丁寧に紡がれていく雨音の声を必死に耳の奥に刻んだ。



苦しそうに、好きだと呟いた雨音の瞳は、この上なく寂しさを帯びている。




「日咲が陽光を好きなのは知ってたよ。……日咲が陽光を見ていたのと同じくらい、俺も日咲を見ていたから」




頷くことも、掛ける言葉も見つからない。



わたしはただ……雨音の履いてる陽光くんの靴を見つめていた。




「日咲が陽光の靴箱に手紙を入れる瞬間に出くわしてしまったとき……最初で最後のチャンスだと思った」




だから、手紙を抜き取ってしまった。

そう言うなり雨音は、静かに頭を下げた。



次に顔を上げた雨音からはもう、笑顔と呼べるものは消えていた。




「日咲の気持ち……もてあそぶようなことして、ごめん」




頭の中がゴチャゴチャに混ざっていくのに、感情だけはハッキリと表に出ていた。
< 61 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop