契約書は婚姻届
「朋香、知り合いかい?」

知らない男が朋香の名前を呼ぶので、尚一郎の眉が不快そうにひそめられる。

「あっ、その、……大学時代の先輩、で」

「そう」

尚一郎はなんでもないような顔をしたが、ただの先輩後輩ではないことは、すでに気づかれている気がした。

 
庭に出ると試乗用の車が停めてあった。
朋香の希望したUP!と、尚一郎が比較に選んだ、Golf。

「乗ってみますか」

「ええ。
じゃあ、まずは朋香が運転して」

「はい」

まずはUP!に乗る。

ハンドルは右ハンドルになっていた。

エンジンをかけ、尚一郎の指示のまま、屋敷の庭を一周。
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