契約書は婚姻届
「れーんーらーくー」

ぶつぶつ云ってるうちにリビングについてしまった。

野々村は無言でお茶の準備をしている。

最初は、お金持ちの家のティータイムといえば、ケーキスタンドにケーキの載ったアフタヌーンティを想像していて、出てきたのがケーキとコーヒーだけでがっかりしたものだ。

「今日はチェリーのケーキでございます」

「わー……」

こほん、野々村に咳払いをされて、一番好きなケーキに思わず出そうになった声を止める。
押部の奥様としてははしたないとは思うが、しょっちゅうこうやってなにかと注意されるのは窮屈だ。

黙々とコーヒーとケーキを口に運ぶ。
尚一郎と一緒に食べるケーキと違ってなぜか味気ない。

もっとも、
「あーん」
と食べさせたがる尚一郎を拒否するのに、あれはあれで疲れるのだが。
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