契約書は婚姻届
それに、朋香自身、積極的に尚一郎に抱かれたい訳じゃない。
夫婦の営みとしては普通だし、たぶん、いまなら嫌悪感なく尚一郎を受け入れられそうな気がする。
ただ、それだけ。

「んー、朋香は僕にきっと、Ich hab' dich lieb.だけど、Ich liebe dich.ではないだろう?」

「えっと……」

癖、なのか尚一郎はちょいちょいドイツ語を挟んでくるが、朋香には全く意味がわからない。
やはり、勉強した方がいいのかなと、ふと思った。

「えっとね。
……家族のようには好きだけど、恋人のようには愛してはないだろう?」

「……たぶん」

朋香の答えに、尚一郎は少しだけ淋しそうに笑った。

正直、尚一郎のことは好きだと思う。
意外と優しいことも知った。

明夫や洋太、有森や工場の人たち程度には間違いなく好きだ。

雪也とした深いキスはなんとも思わなかったが、尚一郎から軽くふれるキスをされるだけでこのごろは嬉しくなる。
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