契約書は婚姻届
頼んだ寿司がくるまで、ずっと黙っていた。

明夫はなにも聞かないし、洋太はなにか云いたげにダイニングの椅子に座ってお茶をすすっている。
尚一郎もちらちらと朋香を窺うばかりでなにも云わない。

そのうち届いた寿司をもそもそと食べる。
支払いは尚一郎がすると云ったが、きっぱりと断られていた。

「それで。
離婚するとか云っていたが、なにがあった?」

お茶を飲んで一息つくと、明夫が口を開いた。

「……尚一郎さんの婚約者が訪ねてきた」

「だから。
元、だって。
婚約は解消した」

尚一郎も否定しているし、信じたかった。
でも、あの侑岐の傲慢な態度に、反発したくなる。

「朋香。
尚一郎君の立場だったら、婚約者くらい過去にいたって、不思議じゃないだろう?」

諭すように云われて、明夫も尚一郎の味方なのだと悟った。
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