契約書は婚姻届
「お早く」

念押しすると、野々村は顔色ひとつ変えないまま部屋を出ていった。

尚一郎に電話をしてみたものの、出ない。
出ないときは犬飼に伝言を頼むように云われたのを思い出し、かけてみるもこちらも出ない。

とりあえず、画面に指を走らせてメッセージを送る。

“本邸から呼び出しがありました。
いってきます”

迎えが待っているということだし、着付けを頼むほど余裕もなさそうなので、クローゼットを漁って上品そうに見えるスーツを着た。

髪をどうしようか迷っていると、コンコンコンと野々村にノックされた。

「お支度はお済みでしょうか」

「えっ、あっ、はい!」

仕方なく、ブラシを通し、軽くクリームで整えるだけする。

玄関を出ると、黒のBMWが待っていた。
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