契約書は婚姻届
箸を置くと、明夫は席を立って茶の間に行き、テレビをつけた。

「あー、もう、よくわかんねー!
寝る!」

ガタン、乱暴に椅子を立つと洋太も自分の部屋に行ってしまい、ひとり残された朋香は深いため息を落とした。

……最後のごはんくらい、三人で仲良く食べたかったんだけどな。

残ったおかずにラップをし、冷蔵庫にしまう。
作った常備菜は冷蔵と冷凍にわけ、賞味期限やアレンジレシピを書いたメモを冷蔵庫に貼っておいた。

片づけを済ませると米をとぎ、明日の弁当の準備をする。
最後の弁当だから、ちゃんと入れたい。

 
部屋に戻るとスーツケースを出して身の回りのものを詰めていった。
なにを持って行っていいのかわからないが、足りないものはあとで取りに帰らせてもらえるのだろうか。

そんなことを考えると急に不安になってくる。

みんなの前では玉の輿だとか冗談めかして笑ってみせたが、不安がないわけじゃない。
反対に不安だらけだ。

でも、自分で決めたことだから。

朋香は自分に云い聞かせると、最後に家族の写真を入れてスーツケースを閉めた。
< 29 / 541 >

この作品をシェア

pagetop